掲示板に戻る 全部読む 1- 最新50長編小説 【 WHITE BOX 】 (Res:11)
- 1 名前: 文才無し 投稿日:2007/02/08(木) 21:33 ID:GmU/kk8Y
- 盛り上げるために俺も参加しますお
あらすじの書き方とジャンルの概念が良く判ってないけど
・作品名 → 「 WHITE BOX 」
・ジャンル → 現代ものダークシリアス (苦手な人はスルー推奨)
・更新頻度 → かなり不定期でアドリブ発動。一話区切りの連載予定。執筆速度は極めて遅い。
・主要人物 → 朝霧 蒼輔(あさぎり そうすけ)/夕凪 朱美(ゆうなぎ あけみ)/白石 聖治(しらいし せいじ)
・あらすじ ↓
少年は病院に入院していた。半身不随にも似た半植物状態。動かせるのは首から上だけだった。
そんな中、少年は生きることに疑問を持ち始める。生きている価値はあるのか? 少年は悩んだ。
ある日、少年は夢を観る。悲しいと感じる夢。ただ一人で見る夕焼けの風景を。
観続ける夢の中で、少年は一人の少女と出会う。しかし、彼女には姿形がなかった。聞こえるのは彼女の声だけ。
悲しかっただけ夢は、終わりと始まりを迎える。
病を患った少年が向かう未来は、夢のように長く続くのだろうか。
この狭く白い病室。硬く閉ざされたWhiteboxの蓋は、静かに開け放たれる。
- 2 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 21:56 ID:SYx/vt.I
- 【 WHITE BOX−1.見慣れた風景 】
世界の終わりってなんだろう。
終末っていうのは、いったい何時、どうやって訪れるのだろう。
全てが終わってしまうとき、ボク自身も終わるということなのだろうか。
ボクはそれが気になっていた。
目の前の変わらない風景は、これといって面白くもなんとも無かった。
だから、いつもそんなことに想いを馳せるのだ。
金縛りにあったように動かない体。
掠れたような声しか出せない口。
すっかり視力の落ちた目。
聴こえないものまで聴いてしまいそうな耳。
五感は次第にその役目を終えようとしてしまっている。
今のボクは何も出来ない、ただ其処に在るだけの存在だった。
こういう体になってしまった原因は、一ヶ月前に遡る。
中学校へ登校するため、通学路を歩いている途中。
ボクは信号無視で突っ込んできた大型トラックに撥ねられ、病院へ運ばれて緊急手術をするほどの重症を負った。
幸いなことに、その手術のお陰で一命を取り留めた。
しかし、一命を取り留めた程度で、ボクの体は半身不随のような植物状態に近いものになってしまう。
辛うじて首から上が動かせるくらいで、それでも不自由なことには変わりなかった。
担当医の白石 聖治さんが言うには、ボクの体は治る見込みが今はまだ無いそうだ。
骨髄移植という道もあるけれど、成功する確率は極めて低く、何よりドナー提供者が少なすぎる。
そんな時間を待ち惚けしている内に、ボクの体は朽ち果ててしまうだろう。
何より骨髄移植すれば治るのかどうかすら疑問だった。
- 3 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 21:56 ID:SYx/vt.I
- 生きているけど生きている実感がまるで無い。
冷たい診療器具に生かされているだけだった。
目を閉じて眠れば、もう二度と起きることが無いんじゃないかっていつも思う。
つい最近になって、ふとこんなことを思い始めてくる。
無理矢理生きているよりかは、死んでしまったほうが楽なんじゃないか――と。
毎日のようにお見舞いに来てくれる両親にとって、ボクはどれほどの迷惑と心配を掛けてさせているのだろう。
ボクがこの世から居なくなれば、少しはそんな両親に楽をさせてあげられるんじゃないだろうか。
眉間に皺を寄せながら、俯くお父さんの顔。
泣きだしそうなのを堪えて、笑うお母さんの顔。
それを見ていると申し訳なくて、何も出来ない自分が情けなくて、心の奥底になんとも言い難い嫌悪感を抱く。
その嫌悪感は、次第に脅迫概念に移り変わる。
この痩せ細った腕が動けば、自らの意思で終わらせることも出来るのに。
唇を噛み締めながら、何度そう思っただろうか。
しかし、そんな思いも次第にぼやけて、この白い部屋のように消えて無に還ってしまう。
そんなことばかり繰り返す中で、ボクはどうしたらいいか判らずに、ただじっと天井を見つめ続ける。
この白い天井は何も教えてはくれない。
何かを求めるのが間違っているのだろう。
目に見える空間は創られただけのモノで、そこに何か在るなんてことは無いのだから。
そんな世界に飽きて、ボクは目を閉じる。
――夢。
それは偽りの現実。儚い安堵のひととき。
今のボクにとって、その世界だけが自由だった。
その世界だけが、唯一の逃げ道だった。
- 4 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 21:57 ID:SYx/vt.I
- 夢を観ている。
悲しみに満ちた夢。
幾度と無く繰り返し観てきた夢。
なぜ悲しいと感じるのかは、正直良く判らない。
夢の中で、いつもボクは独りで夕焼けの空を眺めていた。
いつものように、誰も訪れない街外れにある小さな丘の上で。
この世界では、誰一人として存在感がなかった。
いや、もしかしたら実際に誰も居ないのかもしれない。
ボクだけが、この世界に取り残されてしまったのではないのだろうか。
もしくは自ら望んだ結果が、この世界なのではないのだろうか。
夢は現在の自分の心境が反映されると言われている。
じゃあボクは深層心理の奥底で、こんな世界を望んでいたということになるのではないのか。
それなのに、なんで悲しいのだろう。
本当にこれが望んだ世界なのか……今はまだ、ボクには良く判らなかった。
そんな紅い世界に一つ、何かを吹き飛ばすような強い風が吹く。
草木を鳴らして木の葉を飛ばし、ボクの前髪を揺らしていった。
「キミはこの風景……好き?」
風が通り過ぎた後、どこからか声が聴こえた。
それは優しく響く少女の声。
ボクはその声に驚いて辺りを見回す。
しかし、ここにはボク以外には誰も居なかった。
「私は、とってもとっても大好きだよ」
また聴こえた。
見えないけど、なぜかその子の笑顔が思い浮かんだ。
安心した。
それだけで、悲しかった夢は世界を変えた。
いつも独りだったボクの隣に彼女が居る気がして、とても安心したんだ。
- 5 名前: WHITE BOX−1.見慣れた風景 投稿日:2007/03/20(火) 22:00 ID:GzLhukiw
- 「ねぇ、キミは……この景色、好き?」
さっきと同じような言葉だった。
強い風が吹き抜ける。
ボクは目の前に広がる世界を見つめた。
燃えるような紅い夕焼けの空と、橙色に染まった静かな街並みを――。
1.見慣れた風景−了
- 6 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 22:07 ID:GzLhukiw
- 【 WHITE BOX−2.不確かな接点 】
「ゴホッゴホッ……ゥグッ」
目覚めてからずっと咳が止まらない。
隣で看護士さんと担当医の先生が忙しなく動いている。
ボクは苦しさのあまり、ぎゅっと目を閉じて苦しみから逃げるようにして涙を流し続けた。
動かない体を動かそうとする。
少しでも、早くにでも、この苦しみから逃れたくて奥歯を噛んだ。
なんでボクの体は動かないのだろう。
もどかしくて、自分自身にイライラしてくる。
「鎮静剤と注射の用意! それと点滴もあれに換えろ!」
「でもそれは先程したばかりです! 過剰な投与は危険です!」
「判っている。でも、何もせずにしていられるほど私だって鬼じゃないんだ」
遠くで、遥か遠くでやりとりが聴こえる。
ボクの隣での会話なのかもしれないけど、今のボクにはそれが遠くに聴こえた。
次第に苦しさは引けて、呼吸も落ち着いてくる。
薬のお陰でまたボクは助けられた。
ボクの体は、もう薬無しでは生きていけなくなってしまったのだろうか。
カチャカチャと医療器具を片付ける音を聴きながら、ボクは出るはずの無い溜息を吐いた。
そして、薬のせいか睡魔が襲ってきて、後はそのまま身を委ねるだけだった。
- 7 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 22:08 ID:GzLhukiw
- 同じ夢。
いつもと同じ、独りで人気の無い丘から夕焼けを眺めている夢だった。
悲しい。
なぜか良く判らないけど、この夢は悲しい。
ボクは小さく座り、膝を抱えて顔を埋めた。
見ているだけで悲しくなるのなら、見なければいい。そう思った。
風が吹く。
少し冷たい風がボクの体を駆け抜けていった。
「こんにちわ」
風が止むと同時、昨日と同じ少女の声が聴こえてきた。
ボクは埋めていた顔を上げる。
やっぱり誰も居なかった。
「こんにちわ」
もう一度声。
「こんにちわ」
今度はボクが返す。
「うん、ありがとう」
「?」
なぜお礼を言われたのだろうか。
ついボクの頭に疑問符が浮かんだ。
「今日も夕焼け、綺麗だね」
「そ、そうだね」
未だ姿の見えない彼女の言葉に、適当に相槌をしておく。
「ねぇ、この景色は好き?」
前と同じ言葉。
もしかして、彼女はその答えが聞きたくてまた現れたのだろうか。
- 8 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 22:08 ID:GzLhukiw
- ボクは夕焼けを眺める。
その答えを探るように、闇に染まりゆく空を。
好きか嫌いか。
選択は単純だった。
もしもボクが「嫌い」と答えれば、彼女はもうここに来ないのではないだろうか。
もしもボクが「好き」と答えれば、彼女は納得してくれるのだろうか。
いったい何に納得するのだろう。良く、判らない。
「良く、判らない……」
言った自分がハッとした。
思わず声に出していてしまった。
「判らない、か……。そうだよね、もしかしたらキミにとっては、ただの日常における風景の一部なのかもしれないよね」
どことなく声に寂しさが含まれているような気がした。
「違うんだ、さっきのは思っていたことをつい声にしてしまっただけで、その、思っていたのは全く違うことで、あの、ごめん……」
自分でも何を言っているのか判らなかった。
彼女にとっては、ただの言い訳染みた言葉に聴こえただろうか。
ボクは溜息を吐いてから頭を抱えた。
「ううん、謝らなくてもいいよ。心の声は本当の気持ち。だから、それがキミにとって本当の言葉だと思うよ」
「本当の言葉?」
「それはね、本音と言えるもの。人は本音というものを隠して、建前という偽りの言葉で濁してしまう。でも、そうやって生きていく人が意外と世の中を渡り合うことが出来る。『正直者が馬鹿を見る』という諺どうりの世界なんて、つまらないと思う。だからね、私はこの夢という世界に逃げ込んだ。ここはそんな汚れた現実世界から引き離してくれる、とってもとっても素敵な世界だった」
彼女はまるで、何かを訴えるように力強く語った。
ボクはそんな言葉を静かに聴いていた。
「どこか矛盾している現実。何も無いけど、それがこの夢の中の良いところ。何も考えずに、何もしなくても良い。そんな場所が、私は好き」
「現実のキミは、それでいいの?」
ボクは疑問に思ったことを口にしていた。
いくらこっちが良いと言っても、現実に居る彼女はそうするわけにもいかないのだろうから。
「現実の私……」
どこか遠くを懐かしむような声。
- 9 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 22:10 ID:GzLhukiw
- 「私は5年前の12歳のとき、酷い交通事故に遭った。相手は居眠り運転で、避けきれなかった私は十メートルも吹き飛ばされ、全身打撲に数箇所骨折。頭も強く打って死の淵を彷徨うほどの事故だった。今も現実の私はなんとか生きているけど、死んでいると同じくらいの重体」
似ていた。
ボクも交通事故に遭って、今も生きているのか死んでいるのか良く判らない状態だった。
「昏睡状態って知ってる? 植物人間になったと言ったほうが判り易いかな。現実の私はそれなんだよ。意識も戻らないまま今も眠り続けている。永遠とも思える長い時間を……」
一つだけ違うこと。
ボクは意識が戻っていて、彼女は意識が戻っていない。
5年間も彼女は眠ったままだというのか。
「じゃ、じゃあ……キミはもう目覚めないの?」
「うん、たぶんそうだと思うよ。夢の中でしか生きられない体。でもね、それでも良いと思った。現実から離れられるのだからね」
「よ、良くないよ! 夢の中でさえ独りぼっちだなんて、そんなの、寂しすぎるじゃないか……」
思わずボクは声を荒げていた。
悲しすぎる。彼女の考え方は悲しすぎた。
「ボクもキミと同じような状況で、事故に遭って半身不随みたいな状態で今も入院している。でもね、この世界で独りであの夕焼けを見ていると悲しくなってくるんだ。ここはボクの望んだものじゃないって……だってここには、何もないんだ。独りで見る夕焼けは、悲しすぎるから……」
「そっか、同じなんだねキミも。でも今は、私が居るよ? それじゃあダメなのかなぁ?」
「独りじゃなくなったのは嬉しい。でも、キミの姿が見えないから、結局は一緒なんだ」
ボクは残酷な言葉を言っていたに違いない。
彼女の姿が無いのは、何かしら理由があるはずなのに。
「今はまだ、『私』という固体概念がこの世界に形を成していないだけ。キミの目に映る為には、キミ自身にも『私』という概念を想い描く必要があるんだよ」
言っていることが理解できなかった。
彼女の姿を想い描けばいいのだろうか。
でも、全く面識の無い相手を想うことなんて無理な話だった。
そうだ、ならば彼女にはボクが見えていないのではないのだろうか。
- 10 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 22:10 ID:GzLhukiw
- 「えっと、じゃあキミはボクが見えているの?」
「ううん、見えていないよ。多分キミと同じで声しか聴こえない。でも、私には私自身がここに存在していることは確か」
「……つまり、互いに相手の姿は見えていないということ?」
「そういうことだね。ちなみに私はキミの隣で一緒に座っているって感じなんだけど」
「え?」
思わず隣を見た。
そこには空間だけ。
「あ、もしかしてコッチ見てる?」
「判るの?」
「雰囲気でなんとなくだけどね。あと声の聴こえる感じとか。キミにも私の声がすぐ隣で聴こえてくるような、そんな感じしない?」
「言われてみれば……」
今まで気にしていなかったけど、確かに彼女の声は隣から聴こえてくるようだった。
それは意識しないと判らない感じ。
無意識では判らない変化。
「ねぇ、キミはちゃんとそこに居る?」
「え? ああ、もちろん」
「良かった。話していても時々不安になっちゃうんだ。もしかしたら本当は誰も居なくて、今話しているのは幻想の相手じゃないのか、ってね」
ある意味、幻想相手なのだろう。
姿も無い相手なら、それが尚更強く思える。
「ひとつ質問していい?」
「ん? いいよ」
「この景色は、好き?」
またこの質問。
もう三度目くらいだろうか。
ボクは空を仰いだ。
彼女も隣で見ているであろう、この真っ赤に染まった夕焼けを。
- 11 名前: 文才無し 投稿日:2007/03/20(火) 22:11 ID:GzLhukiw
- 「やっぱり、良く判らない。でも、悲しい。なぜか知らないけど」
好きか嫌いかなんて判らなかった。
明確な答えは出るはずがない。
漠然としたこの世界で、ハッキリした答えなんて求めてはいけない気がした。
「じゃあ、私と見るこの景色は、好き?」
さっきと同じでいて違う質問。
ボクは空から視線を外して隣を見やる。
やっぱりそこには誰も居なかったけど、さっきより誰かが確かにそこに居るような、そんな感じがした。
ボクはなんて答えればいいのだろう。
彼女はどんな顔をしてボクの答えを待っているのだろう。
独りで見る景色より、彼女が居てくれたほうが嬉しい。
誰かが居る。それだけで悲しさは薄れていくのだから。
ああそうか、答えはもう出ていた。
もう悲しみも寂しさも要らない。
必要なのは、彼女の声だから。
だからボクは少々声を張り上げて彼女に言う。
ありったけの笑顔で。
「好きだよ」
世界に風が吹いた。
夢の終わり。
ボクは独り、現実世界へと目覚める。
2.不確かな接点−了
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